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1:おやかた
:
2010/06/14 (Mon) 08:13:18
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<春の木洩れ日の中で…第2話>
2.若いうちの苦労は買ってでもしろとは言うけれど、
一生苦労しなくて良いならそのほうが良いよね(仮)
程なくして3人は朱里の家に着いた。
朱里の家は、工場を営んでいる。
工場といっても、朱里の父親が一人で切り盛りしている小さな工場である。
しかし、腕のいい職人である朱里の父のおかげで小さいながらも繁盛していると、
かつて朱里から聞いていた。
のぞいて見ると工場は開いているが、人の気配は無かった。
「こんにちわ~」
大須磨が声を掛けるが、返事は無い。
紫苑は工場の奥にある居住部まで進んで声を掛けるが、
やはり返事は無かった。
『留守みたいだね・・・』
「ああ・・・でも開けっ放しってことは、すぐ戻るんじゃないか?」
『そうだな・・・少し待ってみるか』
3人は表で時間を潰していた。
「ねー聞いてよこの間さあ・・・・・・」
凛は2人が聞いていようが聞いてなかろうがお構いなく、
ひたすら一人で喋っている。
30分程待ったが戻る気配もなく、待ちくたびれて、そろそろ帰ろうかと相談していると、
凄まじい勢いで自転車をこいでくる朱里の姿が見えた。
「おお、大須磨、紫苑、それに凛ちゃんまで・・・どした?」
『どした?・・・じゃねえよ、連絡も無く学校休んでるから、心配して様子を見に来たんだよ。』
「あ、そっかw」
『そっかw・・・じゃねーよ!』
いつも冷静な大須磨が珍しく激高している。
「まあまて、話を聞いてからにしようぜ。」
このままでは喧嘩になりかねないと、紫苑が間に割って入った。
凛は、3人のやり取りをよそに、工場の中を珍しそうに探検している。
「実はさ、親父が倒れて入院しててさ・・・おふくろは親父に付ききりで、
でも注文がいっぱい入ってるから、代わりに俺が仕事してたんよ。」
『マジか!?』
「めっちゃマジだって。」
『親父さんの具合どうなんだ?』
「親父はただの過労だって。でもさ、親父ももう歳だし、
退院しても今までみたいには働けないだろうからさ・・・」
『お前・・・もしかして・・・』
何かを察した大須磨が朱里に詰め寄る。
「・・・そりゃあ俺だって、みんなと一緒に卒業したいけどさ・・・」
『・・・だけど、そんな・・・』
朱里の気持ちを察した大須磨は、それ以上何も言えなくなってしまった。
「何か手伝えることはないか?」
静かに様子を見守っていた紫苑が言った。
「・・・うん、まあとりあえず俺がどうにかするから・・・
みんなによろしく伝えといてくれよ・・・」
「・・・わかった・・・」
紫苑は感情を押し殺して、そう答えた。
『邪魔したら悪いから、帰るわ』
がっくりと肩を落とした大須磨は、呟いてトボトボと出て行った。
凛と紫苑も、黙って後を着いて行った。
帰り道、大須磨と紫苑は黙りこくっていた。
凛だけは来たときと代わらず、元気に一人でしゃべっていた。
3人は、同じ中学から同じ高校へ行き、一緒に卒業するつもりだった。
朱里の家の事情は分かるが、感情は別物である。
『どうにかできないもんか・・・』
呟いては見るが、自分たちも養われている身分である、
どうにか出来るだけの力など無いことは、自分自身が一番分かっている。
「とにかく明日、みんなに話してみよう・・・」
紫苑の提案で、ともかく今日は解散することになった。
2人と別れた後、大須磨はやるせない気持ちを落ち着かせるために、
遠回りをして河原の土手を歩いていた。
それは中学の頃、よく3人で歩いた場所だった。
あの頃は、ただ楽しくて、何の不安も無かった。
将来のことなど、現実の世界の話ではないような気がしていた。
朱里が学校を辞めて家業を継ぐ。
夢の中から、いきなり現実に引き戻された気分だった。
そして何より辛いのは「自分には朱里を助けてやれるだけの力が無い」
ということを自覚してしまったことである。
3人寄れば文殊の知恵、とは言うものの、
みんなで相談したところで、どうしようもないことは分かりきっている。
土手に座り、川の流れを見るでもなしに眺めていた。
まだ春には早い、冷たさの残る風が大須磨の心を吹き抜けていった。
<さらにつづく・・・のか>
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2:姫
:
2010/06/15 (Tue) 12:27:24
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若干シリアス展開だね・・・。
さらに続いて欲しいですw
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3:りみ
:
2010/06/15 (Tue) 21:31:50
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うわーなにこれおもしろいw
もっとやれーw