BBS 53978


悪魔とは

1:魔王オルステッド :

2010/06/27 (Sun) 18:19:15

 オルステッドが久方ぶりの狩りからギルドホールに帰ってくると、紫苑が椅子に座って本を読んでいた。

「あれ? 紫苑じゃないか」

 集中していたのか、紫苑は片目だけ本から目を放し、

「……おかえり」

 それだけ言うと、再び本に目をやった。

 あまりにも素っ気ない態度にオルステッドは少しムッとするが、それだけ集中できるものなのか、と紫苑が読んでいる本に興味を持ち始めた。

 オルステッドの視線に気づいたのか、紫苑は再び本から目を放した。

「……何か用?」

「あ、いや、何を読んでいるのかな~って……」

「……これ?」

 紫苑は自分の手に持つ赤い表紙の付いた本を見せる。

 オルステッドは表紙の字が見える所まで近づき、タイトルであろう一際大きな黒い字を読み上げた

「ラーズグリーズの……悪魔?」

 見慣れないタイトルに、オルステッドは疑問符を上げる。

「――歴史が大きく変わる時」

 紫苑が本を置いて立ち上がると、少し感情の入った声で語り始めた。

「ラーズグリーズはその姿を現す」



 紫苑の放つ雰囲気や底冷えするような言葉に、オルステッドはいつしか恐怖を感じ始めていた。

「始めには漆黒の悪魔として」

 目を天上へと向け、両手を大きく広げる紫苑。あまりにも大袈裟な仕草であるが、オルステッドはそんな事すら気にならない程、目が離せなくなっていた。

「悪魔はその力をもって大地に死を降り注ぎ、やがて死ぬ」

 ゆっくりと両手を下す紫苑。その仕草は悪魔が死ぬというより、しばし休めるようであった。

「しばしの眠りの後、ラーズグリーズは再び現れる」

 そう言って、紫苑はオルステッドが腰に付けてあった剣をいきなり奪い取る。

「あっ!? ちょ、返せ!!」

 一瞬の隙をつかれたオルステッドが慌てて取り返そうと手を伸ばすも、それよりも先に紫苑は奪い取った剣を高々と掲げた。

「英雄として現れる」



「……すまなかったな」

 少しの沈黙の後、紫苑は掲げていた剣を下し、オルステッドに手渡した。

「いや、別に……」

 剣を受け取ったオルステッドも、ばつの悪い顔をする。

「それにしても、凄い演技力だな。思わず見惚れてしまったよ」

 雰囲気を変えようと、紫苑の突然の演技を手放しで誉めるオルステッド。

 だが、演技の終えた紫苑の声に、抑揚は無かった。

「……昔、役者を目指してた時期があったから」

「道理で」

「……皆は?」

 ここで他のメンバーがいない事に気がついたのか、紫苑が聞いてくる。

「知らね。そもそも皆と実力が違うし」

 もっとも、一緒にやったとしても足手まといになるのは分かっているので、誘われても断るが……と、オルステッドは心の中で思ってたりするが、あえて言わなかった。

「……そう」

 項垂れる紫苑。

「そう心配すんな、皆はそう簡単に死なねぇよ。特に姫」

 確信しているのか、自信たっぷりのオルステッド。

「ペットを奴隷の如くこき使い、ヘマをすれば容赦なく叱りつける……あれこそ正に悪魔ならぬ悪鬼らせ――」

「誰が悪鬼だって?」



 その声にオルステッドはギクリと身体を強張らせた。ふり返りたくても、本能が必死に拒否する。

「……姫」

 紫苑がオルステッドにとって一番聞きたくない者の名を口にする。

「ヤッホー紫苑さん。魔王様と何してたの?」

「……別に」

 相変わらず抑揚のない紫苑の声。だがその顔には微妙に怯えが入っていた。

「じゃあ魔王様をちょっと借りても問題ないよね?」

 姫はオルステッドの腕をガッシと掴む。

「……問題ない」

「問題大アリだこの野郎! 俺を見捨てる気か!?」

「……お前の事は忘れない」

「忘れるな! 助けろ! 助け――」

「オホホホ、魔王様、向こうでゆ~~~~っくり話しましょう?」

 ずるずるとオルステッドを引きずって連れていく姫。その顔はもの凄くにこやかであるが――

「……姫、怒ってる」

 その額に小さく血管が浮いているのを紫苑は見逃さなかった。

「さぁ魔王様、どんな話をしようかしら? オーホッホッホ!!」

「ノオオオオオォォォォォォォォ……」

 二人の姿が視界から消え、やがて聞こえてくるであろうオルステッドの断末魔を予想して、紫苑はやっぱり抑揚のない声で呟いた。

「……ご愁傷様」
2: :

2010/06/28 (Mon) 18:56:37

笑わせてもらったよww
うんw面白かったw
3: :

2010/06/28 (Mon) 19:01:24

言い忘れた!
わたしはそこまで非人道的じゃなーい!

・・・と思うよ?
4:おやかた :

2010/06/30 (Wed) 10:54:22

おもしろいです。
姫の魅力が十分に描かれていると思いますw

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